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HACCP制度化
平成30年6月13日に食品衛生法が改正され、その中で「HACCP義務化」が決定しました。「HACCP義務化」について弊社のお客様企業から問い合わせがありましたので、
①厚生労働省の意図は、どこにあるのか?
②食品業者は、いつまでに、何を、すればよいのか?
③求められる食品安全管理とは、どのようなものか?
を以下に簡単にまとめました。参考にしていただければ幸いです。なお、疑問点や食品安全管理の詳しい進め方につきましては、弊社まで、お問合せいただければ幸いです。
1.食品衛生法等の一部を改正する法律案の概要
(1) 改正の趣旨
改正の趣旨は「わが国の食をとりまく環境変化や国際化等に対応し、食品の安全を確保するため、
①広域的な食中毒事案への対策強化、
②事業者による衛生管理の向上、
③食品による健康被害情報等の把握や対応を的確に行うとともに、
④国際整合的な食品用器具等の衛生規制の整備、
⑤実態等に応じた営業許可・届出制度
⑥食品リコール情報の報告制度の創設等
の措置を講ずる」とされています。
(2)改正の概要
1)広域的な食中毒事案への対策強化
国や都道府県等が、広域的な食中毒事案の発生や拡大防止等のため、相互に連携や協力を行うこととするとともに、厚生労働大臣が、関係者で構成する広域連携協議会を設置し、緊急を要する場合には、当該協議会を活用し、対応に努めることとする。
2) HACCP*に沿った衛生管理の制度化
原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。
*事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるために特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法。先進国を中心に義務化が進められている。
3) 特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
健康被害の発生を未然に防止する見地から、特別の注意を必要とする成分等を含む食品について、事業者から行政への健康被害情報の届出を求める。
4) 国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備
食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみ使用可能とするポジティブリスト制度の導入等を行う。
5) 営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設
実態に応じた営業許可業種への見直しや、現行の営業許可業種(政令で定める34業種)以外の事業者の届出制の創設を行う。
6) 食品リコール情報の報告制度の創設
営業者が自主回収を行う場合に、自治体へ報告する仕組みの構築を行う。
7) その他
乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化、自治体等の食品輸出関係事務に係る規定の創設等
保健所による講習(保健所HPより)
(3)義務化となるのはいつからか?
2018年6月13日に公布された改正食品衛生法が効力を持つのは「施行」が行われた後になります。そして、「施行」については、以下のように記されています。
附則第1条
この法律は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。(以下省略)
附則第5条
新食品衛生法第50条の2第2項に規定する公衆衛生上必要な措置については、施行日から起算して1年間は、旧食品衛生法第50条第2項の規定により定められた基準によることとする。
つまり改正食品法は、公布の日(2018年6月13日)から2年以内に施行されます。ただし、HACCPを義務化する項目に関しては、さらに1年間の猶予期間が設けられます。したがって、遅くとも2021年6月までにHACCPの義務化が行われることになります。
(4)行政はどのような指導をするのか? また罰則はあるのか?
HACCPに沿った衛生管理とは「食中毒防止・異物混入防止のための衛生管理」です。事業者の実施状況について、保健所等が、営業許可の更新時や通常の定期立入検査を行う際に、HACCP に沿った衛生管理を行っているかどうかを監視指導する仕組みです。
①今までと同じように、普段の立ち入り調査の際に指導をすることに変わりはありません。大きく変わるのは、そのときに「HACCPに沿った衛生管理(計画・実行・記録)が正しく運用されているかどうか」を調査されるということです。
②事業者が「HACCPに沿った衛生管理」を行わない場合、まず行政指導が行われます。事業者が行政指導に従わず、人の健康を損なうおそれがあると認められる食品等を製造した場合には、改善が認められるまでの間、営業の停止などの行政処分が行われることがあります。
③営業許可の更新時や届出の際に衛生管理計画を確認することは考えられますが、衛生管理計画は許可の可否の判断基準には含まれません。
④食品衛生法の規定では、最悪の場合「3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金」が課せられます。
つまり、事業者が、HACCPに沿った衛生管理を守っていないからといって「すぐに罰則などを適用されることはありませんが、食中毒を起こしたときや営業許可の更新時に、行政指導や行政処分をする可能性はある」ということです。
行政指導を何回も受ける事業者にならないことは当然ですが、何よりも大切なことは食中毒を起こさないことです。「HACCPに沿った衛生管理」は、法律で義務付けられたから仕方なく実行するのではなく「食中毒防止のための最低限の基準だ」ということを認識して、お客様のために、ひいては自社のために自主的に実行するようにしましょう。
保健所による現場指導(保健所HPより)
2.何をやればよいのか
(1) HACCPに沿った衛生管理の制度化
全ての食品等事業者(食品の製造・加工、調理、販売等)が衛生管理計画を作成 | |
データ食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組( HACCPに基づく衛生管理) | 取り扱う食品の特性等に応じた取組(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理) |
コーデックスのHACCP7原則に基づき、食品等事業者自らが、使用する原材料や製造方法等に応じ、計画を作成し、管理を行う。 【対象事業者】 事業者の規模等を考慮:と畜場[と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者]食鳥処理場[食鳥処理業者(認定小規模食鳥処理業者を除く。)] |
各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行う。 【対象事業者】 小規模事業者(*事業所の従業員数を基準に、関係者の意見を聴き、今後、検討) 当該店舗での小売販売のみを目的とした製造・加工・調理事業者(例:菓子の製造販売、食肉の販売、魚介類の販売、豆腐の製造販売等)提供する食品の種類が多く、変更頻度が頻繁な業種(例:飲食店、給食施設、そうざいの製造、弁当の製造等) 一般衛生管理の対応で管理が可能な業種等(例:包装食品の販売、食品の保管、食品の運搬等) |
※取り扱う食品の特性等に応じた取組(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)の対象であっても、希望する事業者は、段階的に、食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組(HACCPに基づく衛生管理)、さらに対EU・対米国輸出等に向けた衛生管理へとステップアップしていくことが可能。
【国と地方自治体の対応】
①これまで地方自治体の条例に委ねられていた衛生管理の基準を法令に規定することで、地方自治体による運用を平準化
②地方自治体職員を対象としたHACCP指導者養成研修を実施し、食品衛生監視員の指導方法を平準化
③日本発の民間認証JFS(食品安全マネジメント規格)や国際的な民間認証FSSC22000等の基準と整合化
④業界団体が作成した手引書の内容を踏まえ、監視指導の内容を平準化
⑤事業者が作成した衛生管理計画や記録の確認を通じて、自主的な衛生管理の取組状況を検証するなど立入検査を効率化
(2)「HACCPに沿った衛生管理」
さて、食品業者がやることは「HACCPに沿った衛生管理」と規定されました。では、何をやれば「HACCPに沿った衛生管理」をやったことになるのか、という疑問が生じます。
HACCPは、「一般衛生プログラム(ISO22000では前提条件プログラムという)」と「HACCPプラン」からなります。
「HACCPプラン」は食中毒の原因となる細菌を殺す計画です。細菌が死滅する温度と時間はわかっているので、温度〇度で〇秒加熱(焼く、煮る、揚げる、蒸す)する計画のことです。
「一般衛生プログラム(前提条件プログラム)」は、HACCP工程での殺菌が無効にならないように、敷地や建物や装置・器具類の殺菌・清掃や材料の搬入保管、社員教育などを行うプログラムを指します。
いま、食品小売業を考えると、通常は、加熱工程はないので、「HACCPプラン」は不要だということはわかります。ただし、一般衛生管理の中で「何を行うか」だけは決定しなければなりません。結果として「一般衛生管理を行う工程は存在しない」のならば、「一般衛生管理は存在しない」でもよいのです。たとえば、製造を委託し、配送を委託し、販売を委託している場合は、自社の中には、一般衛生管理を行う工程は存在しません。
「HACCPに沿った衛生管理」とは、「何を行うか」を「HACCPに沿って」決定し、衛生管理するということです。何を行うかをHACCPでは「ハザード分析(危害分析)」で決定します。
つまり、「HACCPに沿った衛生管理」とは、「ハザード分析(危害分析)を行い衛生管理を行う工程、衛生管理の方法を決定する」ということです。
単に、「HACCPプラン」や「一般衛生プログラム(前提条件プログラム)」を作成して、実行することではなく、どの工程の衛生管理を、どのように管理するかを「ハザード分析(危害分析)」で決定し、「HACCPプラン」や「一般衛生プログラム(前提条件プログラム)」を運用するという流れになります。
なお、HACCPも、ISO22000も、衛生管理(食中毒や異物混入を防止する規格)であって、「品質」のための規格ではありません。ですから、「味」がどんなに不味くとも、「賞味期限」がどんなに短くとも、「価格」がどんなに高くとも、それを改善するための管理を行うものではありません。
もちろん、ISO22000のPDCAの中に品質管理を導入することはできます。また、HACCPの一般衛生管理を拡張して品質管理を導入することはできます。
しかし、HACCPも、ISO22000も本来的に管理するものは「食中毒」と「異物混入」だけです。「HACCPに沿った衛生管理」といっても、「品質」を向上させる必要はありません。製品の「品質」は現状を維持したまま、製品の安全性を向上させる規格であるとお考え下さい。
ISO22000文書審査(奥がISO審査員)
3.HACCP管理とは
(1) HACCP管理構築の手順は、次の通りです。
①ハザード(危害)分析により、工程ごとに、ハザード(危害)を抽出する。
②抽出されたハザードに対して、管理手段を選択する。管理手段には次の3つがある。
・一般衛生管理(ISO22000:前提条件プログラム)
・オペ―レーションPRP(ISO22000のみ、HACCPにはない)
・HACCPプラン
③管理手順(PDCA)の構築(ISO22000のみ)
(2)一般衛生管理(ISO22000:前提条件プログラム)
HACCPとISO22000で、内容が若干異なりますが、危害分析にしたがって、次のような手順書を作ります。
1) 施設設備の衛生管理 2) 従事者の衛生教育 3)施設設備および機械器具の保守点検 4) 鼠族(ネズミ)・昆虫の防除 5) 使用水の衛生管理 6) 排水および廃棄物の衛生管理 7) 従事者の衛生管理 8) 食品等の衛生的取り扱い 9) 製品の回収方法 10) 製品の試験検査に用いる機械器具の保守点検 |
(3)HACCPプラン
製品に含まれる可能性がある「細菌」を死滅させる。通常は加熱工程でこれを行う。管理するものは、通常は、加熱温度と加熱時間です。
4.HACCPの弱点
平成8年に「総合衛生管理製造過程承認制度」がスタートしました。この制度は、HACCPの認証制度です。この制度で承認された雪印乳業大阪工場が、平成12(2000)年に集団食中毒事件を引き起こしてしまいました。
「国が安全だと承認した工場で起きた」ことで、国の承認制度に対する信頼が揺らいでしまったのです。
しかも、承認後、一度も立ち入り検査をしていなかった厚労省(保健所)の責任を問う声も上がりました。そうした過去の経験を踏まえ、今回は認証も承認もしない単なる制度化にしているのです。そして、「総合衛生管理製造過程承認制度」も廃止されることになりました。
つまり、HACCPの弱点は次の通りです。
①食品安全システムが作りっぱなしになっていた。
工場の床を剥いでみると、ネズミが300匹生息していたという工場もありました。
HACCPで「鼠族・昆虫対策」のマニュアルを作成していたにも関わらず、そして、厚生労働省から「承認」されていたにも関わらず、実際には運用されていなかったのです。
②運用のための計画・手順がない
HACCPでは、今年、来年、再来年の目標が設定されていません。目標がないので、PDCAが有効に回せません。その結果、毎月、どこをどう改善していくかを決めることが困難です。
③経営者の関与がない
不祥事を起こしたHACCP承認企業の経営者がTVで「知らなかった」と述べて批判を受けましたが、あれは、本当に知らなかったのです。
HACCPでは、経営者が「食品安全」に関わるようになっておりません。したがって、問題が発生しても、経営者に報告しなくともよいのです。その結果、「内部監査」「マネジメントレビュー(経営者の見直し)が機能しないシステムなのです。
この点は、何らかの方法で改善しなければ、「HACCPに沿った衛生管理」を導入しても迅速な対応は取れないような気がします。
5.HACCP弱点の改善
上記のHACCPの弱点を改善したシステムがISO22000です。HACCPを効果的に運用しようとするものがISO22000であり、HACCPを全うするものであると考えてください。とくに、難しい管理手法が導入されるわけではありません。したがって、図式的に表せば、次のようになります。
「総合衛生管理製造過程承認制度(HACCP)」に対する疑問が発生した以上、何らかの改善策が必要になります。
その改善策としては、ISO22000のようなマネジメントシステムによる管理を行うことが考えられます。しかし、それは必ずしも、ISO22000を認証取得するということではなくて、これまで不備であった個所を是正するようにすればよいのです。
また、厚生労働省は、外部監査として保健所の立入検査を用いるようです。これに対して、食品業者は、従来通りの業務を行い、保健所の指導があった場合には従うようにしてください。よほど酷い状況でない限り、営業停止などの処分は行わないと厚生労働省や保健所はいっています。
ISO22000現場審査(中央が審査員)
6.今後の対応策
厚生労働省の見解を総合すると、
①食品業の大規模・小規模の境目は、「従業員数50名」というところにあります。
②業務内容の分類では、加熱工程で殺菌している企業ではHACCP管理、殺菌工程がない企業では一般衛生管理を徹底してください。
そこで、業種ごとに実施項目をまとめると次のようになります。
※外部監査とは審査機関による監査、内部監査とは社内で行う自主監査を指します。
※加熱殺菌の工程がなくとも、金属検出の工程がHACCP管理になります。
※飲食店の加熱工程は目的が殺菌でない場合が多いと考えられますので、加熱工程が即座にHACCP工程になるとはいえません。それよりも、食材に付着した細菌に留意してください。
ただし、この分類は、大雑把に整理しただけであり、事情は企業ごとに異なりますので、どのような管理が必要になるかは適宜判断してください。
その際、重要なことは、「ハザード(危害)分析」にしたがうということです。これは、記録を残しても、頭の中で行っても結構ですが、保健所の立ち入り検査があったときに、説明できるようにしておいてください。
また、今回の改正の狙いがどこにあるかをおさえておくことが重要です。厚生労働省は「東京オリンピック・パラリンピック」と述べておりますが、では、「東京オリンピック・パラリンピック」が終われば、HACCPの制度化を解除するかというと、そうではないでしょう。ということは、別に狙いがあるということです。
TPPにより、今後、大量の安い食材が輸入されるでしょう。それはビジネスチャンスには違いありませんが、これらの輸入品の安全性は大丈夫でしょうか?
これは、われわれ国民の健康に関することですので、食品会社におかれましては、受入検査を徹底し、食品危害の予防に努めていただきたいと存じます。
最後にJAS法への適合化を図ってください。。食品不祥事の中に、和菓子「A」がありましたが、和菓子「A」は、「品質表示」について、保健所に相談して「食品衛生法」上問題はないというお墨付きをいただいていたそうです。だから、安心していたのだそうです。
ところが、JAS法に抵触していたのです。保健所はJAS法の監督官庁ではないので、JAS法からのチェックはしていなかったのです。気の毒な事件と言わざるをえませんが、そのようなことがないようにJAS法への適合化にも留意してください。