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2.ISOの最重要課題-規格の読み方
ここでは、ISOについて、最も基本的なことをいくつかご紹介いたします。この稿をお読みいただくと、なぜ、通常のISOシステムが、肥大化するのか、使い物にならないのかについて、その一端はご理解いただけると思います。
したがって、その逆を行えば、ISOは簡素化され、その使い勝手は格段に改善されるということです。
そのために、ISOの最も基本的な事項について記しました。必ず、ISOのシンプル化、パフォーマンスの向上にお役に立つと存じます。
■(1) 「原文に忠実に」がシンプル化の秘訣
■(2) 要求事項を超える必要はない
■(3) ISOは経営全体を管理するものではない
■(4) ISO条文には読み方がある
■(5) グローバルスタンダードは国内規格より簡単である
これらの項目をぜひご活用ください。ここで書いていることは、どのような書籍にも掲載されていません。すべて、弊社のオリジナルです。
ここをお読みいただくと弊社が、他社のコンサルさんや審査員さんよりも、ISO規格を真剣に深く理解しようとしてきたことがおわかりいただけると思います。問題は、「なぜ、より真剣に深く」理解しようとしてきたかということです。それは、一重に、役に立つISOを構築し、お客様企業の業績を改善するためです。そして、その目的は達成されつつあります。受注した工事の半数が優良工事表彰に輝いたというお客様も増えてきました。
といっても、難しいことは書いておりませんので、ISOをよりよく運用したいという方、いままで役に立たなかったISOを作り変えて、優良工事表彰を獲得できるシステムにしたい、とお考えの方は、まず、この稿をお読み下さい。
(1) 「原文に忠実に」がシンプル化の秘訣
ISO規格は、原文に忠実に、四角四面にしたがう必要があります。なぜなら、勝手な解釈・誤まった翻訳を施すより、その方がよりよくISOを使えるからです。たとえば、「JIS Q 9001:2015(ISO9001の日本語訳) 10.1 一般」は次のようになっています。
組織は、顧客要求事項を満たし、顧客満足を向上させるために、改善の機会を明確にし、選択しなければならず、また、必要な取組みを実施しなければならない。 |
これでは意味不明です。何をやればよいのか皆目検討が着きません。原文(英語版)「ISO9001:2015 10.1 General」は次のようになっています。
The organization shall determine and select opportunities for improvement and implement any necessary actions to meet customer requirements and enhance customer satisfaction.
直訳(意訳ではなく)すると、
組織は、改善のための機会を決定し選択すること、そして、顧客要求事項を満たし、顧客満足を向上させるために必要な活動を実施すること。 |
となります。このように訳すと、因果関係が明確になり、わかりやすくなります。
まず、「改善のための機会を決定し」とあります。
その中から重要性・緊急性の高いものを「選択し」、選択したものの中から、
「顧客要求事項を満たし、顧客満足を向上させるための活動を実施する」
とよいということがわかります。
規格の翻訳については、以前から、誤謬疑義が数多くありました。
「JIS Q 9001」を読んだとき、意味がわからないという場合には、翻訳がおかしい(誤っている)場合がありますので、原文で意味内容を確認する必要があります。
コンサルさんも、審査員さんも、原文を自分で翻訳せず、他人の翻訳に自分の勝手な解釈を加えて、規格要求事項を理解していますので、出鱈目なことを、受審企業に押し付けてしまうのです。挙句の果てに「私のいうことを聞かないと、審査にとおりません」などという審査員さんが未だにいらっしゃいます。注意しなければなりません。
この点について、日本規格協会は、次のように述べておりますので、規格の意味内容について審査中に疑義が生じた場合には、原文を確認するようにしてください。
邦訳 海外規格 ご利用上のお願い
この邦訳(日本語訳)は,ISOとの翻訳協定に従って日本規格協会が翻訳・ 一般財団法人日本規格協会 |
(2) 要求事項を超える必要はない
「要求事項を超えろ!」という審査員さんが未だに大勢います。これは、完全に誤っています。初版以来、ISO規格のどこにも、「要求事項を超えろ」とは書いてありません。2015年版では、「(1) 原文に忠実に」で述べましたように、「JIS Q 9001:2015 10.1 一般」
「顧客要求事項を満たし、顧客満足を向上させるために」 |
とあります。このように、ISO規格には、「顧客要求事項を満たせ」とは書いてありますが、「顧客要求事項を超えろ」とは「一切」書いてありません。審査員さんは、なぜ、このように誤ったことを受審企業に無理強いするのでしょうか?
われわれ、「日本人は、一定の要求事項があったとすれば、これを全部満たさなければ、一定の顧客満足は与えられない。1個でも満たすことができないと、顧客満足はゼロになる」と考え、仕事をやってきました。
その思考方法で考えると、要求事項全部満たしても、一定の顧客満足が達成されるだけですから、顧客満足を向上させるためには、要求事項を超えなければならなくなるわけです。
このように、ISO規格を誤って理解しているからでしょう。
しかし、ISOは、明らかに「要求事項を満たすことによって、顧客満足は向上する」と考えているのです。その証拠に、ISO9000で「顧客満足」の定義をみると、次のようになっています。
顧客満足:「顧客の要求事項が満たされている程度に関する顧客の受け止め方」 |
ここで、「要求事項が満たされている程度」とは次のように考えられます。
たとえば、要求事項がN個(10個)あったとして、その内K個(5個)が満されているとすれば、K/N (50%)が「要求事項が満たされている程度」です。
顧客満足とは、そのK/Nを顧客がどのように受け止めるかということです。顧客によって、その受け止め方はさまざまです。「50%満たされているので満足だ」「50%しか満たされていないので不満足だ」などの受け止め方があります。
しかし、任意の顧客を考えると、K/Nが大きくなると、顧客満足も大きくなっていきます。少なくとも、ISO規格はそのように規定しています。これを目に見えるようにすると、そこの意味が理解できます。それは、次のようにします。
① | いま、顧客要求事項が10個あったとする。それは、たとえば、「特記・図面を満たすこと」「共通仕様書をみたすこと」「施工管理規準を満たすこと」「契約事項をみたすこと」工事成績評定表を遵守すること」……であったとする。 | |
② | これらの要求事項を顧客満足の高い順にならべると、図「顧客要求事項と顧客満足」のレンガ色の棒グラフのようになります。 | |
③ | レンガ色の棒グラフの高さは、その要求事項を満たすことによって得られる顧客満足を表すものです。たとえば、「特記・図面を満たす」ことにより「a」の満足が得られる。「共通仕様書をみたす」ことにより「b」の顧客満足、「施工管理規準を満たす」ことにより「c」の顧客満足がえられる。以下同様にして「d」「e」「f」……の顧客満足がえられるとする。ここで、a>b>c>d>e>f>……です。 | |
④ | 1つ目までの要求事項が満たされた場合には、つまり、K/N=1/10の場合には、「特記・図面」だけが満されているので顧客満足は「a」である。 | |
⑤ | 2つ目までの要求事項が満たされた場合には、つまり、K/N=2/10の場合には、「特記・図面(顧客満足はa)」と「共通仕様書(顧客満足はb)」まで満たされているので、これらを加えて、総顧客満足はa+bとなる。顧客満足の大きさを図示すると、「特記・図面」の棒グラフを「共通仕様書」の上に載せた棒グラフになる。 | |
⑥ | 3つ目までの要求事項が満たされた場合には、つまり、K/N=3/10の場合には、「特記・図面(顧客満足はa)」と「共通仕様書(顧客満足はb)」「施工管理規準を満たす(顧客満足はc)」まで満たされるので、これらを加えて、総顧客満足はa+b+c となる。顧客満足の大きさを図示すると、「特記・図面」の棒グラフと「共通仕様書」の棒グラフを「施工管理規準」の棒部ラフの上に載せた棒グラフになる。 | |
⑦ | 以下、同様にすると、緑色で示した棒グラフができあがる。緑色で示した棒グラフ上端を赤い線で結ぶと、パレート図のような折れ線グラフが描ける。 | |
⑧ | この赤線の折れ線グラフの横軸は、要求事項が達成された程度x=K/Nを表し、縦軸はx=K/N に対応する顧客満足を表すので、顧客満足をyで表せば、要求事項が達成された程度x=K/Nを、顧客満足yに変換する関数f(x)であると解釈される。 | |
⑨ | 赤の折れ線グラフf(x) はx=K/N が増加すると、顧客満足yが増加するという関係を示している。すなわち、このf(x)はISO9000が規定する顧客満足を表している。 |
これで、顧客満足が定義できました。確かに、顧客要求事項が満たされるたびに、顧客満足は向上しています。だから、ISO規格をみたすために「要求事項を超える必要はない」のです。要求事項を1つずつ満たしていけば顧客満足は向上するのです。
では、要求事項は、どの程度満(いくつぐらい)満たせばよいのでしょうか? 規格にも「改善のための機会を決定し選択すること」とありますので、選択の意味を明確にする必要があります。これは次のように考えます。
① | 図顧客満足と顧客不満足に示したように、横軸にx=K/Nをとり、縦軸に顧客満足と顧客不満足をとる。 | |
② | まず、顧客満足曲線y=f(x) を描く。これは前図と同じものである。 | |
③ | 次に、顧客満足を満たすためのコストについて考える。コストは、現場を維持しなければないので、顧客満足を1個も満さなくとも、一定額のコストがかかる。 | |
④ | 顧客満足を、1個、2個、3個と満たしていくと、コストは増加していく。そして、最初の間は、要求事項を満たすことは簡単なので、コストの上昇は緩やかだか、次第に大きくなり、最後の方では急速に上昇する。 | |
⑤ | コストは顧客とって不満足なので、コストとともに上昇していく。 | |
⑥ | これを図示したものが、図「顧客満足と不満足」の赤い曲線である。 | |
⑦ | ここで、顧客の正味の満足を考えると、顧客満足から顧客不満足を差し引いた「顧客の正味の満足=顧客満足-顧客不満足」となる。それは、図「顧客満足と不満足」の上に凸の点線の曲線で表される。 | |
⑧ | この顧客の正味の満足(点線)は顧客要求事項を1個満たしたときゼロであり、その後上昇し、顧客要求事項を5個満たしたとき最大となり、そこから減少に転じ、客要求事項を9個満たしたとき、再びゼロとなる。 | |
⑨ | したがって、顧客満足が最大になるのは、顧客要求事項は5個まで満したときである。x=K/N<5 でも、x=K/N> 5 でも顧客満足は最大にならないのである。 |
ここで申し上げたいのは、要求事項は単に数多く満たせばよいというのではないということです。実際の施工現場では、要求事項を細かく数えていけば数万という数になるでしょう。工事成績評定表だけでも約800個の要求事項があります。
その上に、顧客が要求していない要求事項まで追加する必要は全くないのです。契約書の契約事項以外のことを行うのは厳密にいえば契約違反です。
だから、ISO9001:2015規格は、「組織は、改善のための機会を決定し選択すること(10.1 一般)」となっているのです。
だから、量・質において、「要求事項を超える」必要はないのです。それは、上述のように丁寧に考えていけばわかることです。
ところが、コンサルさんも、審査員さんも、ISO規格の字面だけしか読んでいません。そのために「要求事項を超えろ」「言うようにしないと認証取得できません」などと誤った解釈をゴリ押ししてきたのです。その結果、認証取得企業は、大変な負担を強いら、迷惑を被ってきました。
(3) ISOは経営全体を管理するものではない
「ISOは経営全体を管理するものです」と、コンサルさんも審査員さんもよくいいます。この見解は完全に誤っているだけでなく無責任です。なぜならば、
① | 手形が落ちないとき、ISOで、どうにかなるでしょうか? | |
② | 銀行からの資金調達をISOで管理することが出来るでしょうか? | |
③ | 労働争議が起きたとき、ISOで沈静化させることが出来るでしょうか? | |
④ | 給与・賞与・退職金をISOで決められるでしょうか? | |
⑤ | 昇進・昇格、降格・減給をISOで決められるでしょうか? | |
⑥ | マーケティングをISOで出来るでしょうか? | |
⑦ | セールスをISOでできるでしょうか? | |
⑧ | 施工管理(IE,QC,VE)をISOで出来るでしょうか? | |
⑨ | 新製品の開発をISOでできるでしょうか? |
明らかに出来ません。これだけのことができないのならば、ISOは経営全体に関わるものとはいえない、ということは明白です。
経営管理は、商品開発管理、施工管理、営業管理、人事管理、財務管理などからなりますが、ISO9001やISO14001は、上述のように、商品開発管理、営業管理、人事管理、財務管理には適用できないのです。
また、施工管理は、納期管理、品質管理、原価管理からなりますが、この中で最も適用しやすいのは品質管理です。したがって、ISOは経営管理の中の、施工管理の中の、品質管理の中の1手法だという事になります。これを図式的に表すと次のようになります。
経営管理 ⊃ 施工管理 ⊃ 品質管理 ⊃ 品質・環境・労働安全マネジメントシステム
これを図に表すと、次図のようになります。この図はピラミッド構造を意味するものですが、単なるピラミッドでは芸がないので、デフォルメして表しています。
図では、ISOシステムは施工管理の中に含まれており、品質・環境・労働安全衛方針は、経営全体の方針ではなく、マネジメントシステムの方針として描かれています。
この品質・環境・労働安全衛方針を決めるのは、ISO規格では、「top management」となっており、決して「president(社長)」とはなっていません。ここからも、品質・環境・労働安全衛方針は、経営全体の経営方針とは必ずしも同じでなくともよいということが読み取れるのです。
(4) ISO条文には読み方がある
審査のたびに、審査員さんが、手順書や記録が増やすので、システムが肥大化していく会社が少なくありません。これは、多くの場合、審査員さんのISO規格の読み方が誤っているからです。規格や法律の条文には、「法理論」にしたがった読み方があります。簡単に述べると、
■①ワイマール憲法型解釈
■②合衆国憲法型解釈
の2種類があり、ワイマール憲法型解釈をとると、後から後から禁止事項が発生し、それを適合化するために、手順書や記録を追加せざるをえないのです。ワイマール憲法型解釈をとると、理論的には、無限に手順書や記録が増えていきます。
手順書や記録を少なくするためには、合衆国憲法型解釈をとる必要があります。合衆国憲法型解釈をとれば、マニュアルは簡素化でき、毎年の審査で、審査員さんから、手順書や記録を増やされることもなくなります。弊社が、
超小型ISO・OHSAS
を開発できた最大の秘密は、実は、この合衆国憲法型解釈をとったことにあったのです。いまだに、ISOが小さく出来るはずがないと頑なに信じている人も少なくありません。それは、知らず知らずのうちにワイマール憲法型解釈をとっているからです。
ISOで管理責任者の皆様が、ご苦労なさっているのも、根本は同じ理由によるものです。
合衆国憲法型解釈をとるといっても、難しいことは何もありません。考え方を変えるだけでよいのですから、時間にして「1分」もかかりません。応用もすぐできます。
ISOで苦労しておられる方々は、いまからでも、遅くはありません。是非、いますぐにでも、ワイマール憲法型解釈を捨てて、合衆国憲法型解釈をとってください。
(5) グローバルスタンダードは国内規格より簡単である
ISO規格要求事項を解釈するポイントは、他にも多々あります。とくに、経営者・管理責任者の皆様は、コンサルタントや審査員さんの言に惑わされることなく、誤った解釈にはまることなく、自社に役立つISOの構築、運用を心がけて下さい。
その際、規格をよく読む。自社に当てはめた場合に支障なく機能する。成果をあげるための機会の開拓に貢献するいう視点から十分にご検討をお願いいたします。
もちろん、主観点や総合評価のために、多少の面倒は多めに見ようというお考えもあるかと思います。しかし、
■■■■■・「ISOの登録証は返上した」
■■■■■・「もう、ISOは二度とゴメンだ」
という会社も多いのです。それは、コンサルタントや審査員さんが、負担だけが大きくて役に立たないISOを無理強いしてきたからです。
ISOが面倒とか、ISOは大変だというのは、明らかに間違っています。
なぜなら、日本は「品質世界一」なのです。少なくともトップクラスにあります。その日本の企業が「大変だ」というようなシステムならば、世界中、どこの国も、ISOを認証取得することはできないでしょう。グローバルスタンダードは、日本の国内の規準よりハードルは低いはずです。世界中のあちこちに、「こんな難しい規格は使えません」という国・企業があるならば、グローバルスタンダードにはなりえません。
したがって、日本の企業は、ISOの規準以上の管理をやってきたのです。ただし、ISOの規準以上の管理をやっているという証拠があるかというと、必ずしもそうではありません。したがって、ISOを認証取得するということは、その証拠を示すだけなのです。
したがって、いまやっている以上のことをやる必要はまったくありません。あなたの会社は、いまのままで認証取得できるはずです。すでに認証取得された企業の場合、手順書や記録がたくさんできていれば、それらを捨てるだけで、ISOを楽に運用できるようになります。おそらく不適合にもならないはずです。
しかし、それだけでは、単に認証取得して、楽に運用できているというだけです。会社の売上・利益増大に役立っているわけではありません。今後のISOは、会社の役に立つかどうかがポイントになります。
今後は、公共工事予算が益々締め付けられるようになり、若年労働者の確保が難しくなっていきます。事業継続もますます厳しくなっていくでしょう。
だからこそ、会社の全てのシステムを会社の生き残りに向けて整備する必要があるのです。ISOもそのひとつであり、整備の仕方によっては、会社経営に大いに役に立つものです。たとえば、弊社のお客様では、受注した工事の半数が優良工事表彰を受けておられるところも少なくないのです。
ISOをそのように改善するのは実は簡単なことなのです。コンサルさんや審査員さんが、ISOを難しいものにしたから、いまのISOは成果があがらないのです。
いますぐにでもここで述べてきた、そのような方向に品質・環境・労働マネジメントシステムの改善が始まる事を期待しています。